東京高等裁判所 昭和26年(う)229号 判決
記録を閲するに所論起訴状記載の公訴事実第二には論旨摘録の如き公文書偽造の事実を掲げ、罪名及び罰条として公文書偽造、刑法第百五十五条と摘示してあること。これに対し原判決が訴因罰条の変更手続を経ることなく原判示第一の(二)として公務員の印章署名偽造の事実を認定していることは所論の通りである。しかしながら元来、刑事訴訟法第三百十二条が訴因又は罰条の変更等につき一定の手続を要請しているのは、主として被告人の防禦権の行使を全からしめようとする趣旨に外ならないから、公訴事実の同一性が保持せられ右規定の趣旨に反する虞れのない場合には、訴因又は罰条の変更等の手続を経ないでも裁判所は起訴状記載の公訴事実と異る事実を認定して差支えないのである。そこで本件のように公文書偽造の起訴に対し公務員の印章署名偽造を認定する場合の如きは、裁判所が訴因たる事実の或る構成部分を認定するものに過ぎないから、これがため公訴事実の同一性を失わないのは勿論、被告人の防禦権を侵害する虞れもないと解すべきである。然らば原判決の所論事実認定には所論のような法令違反はなく、従つて論旨は理由がない。